現代建築において、「空間」とは単なる物理的な枠組みを超えた、人間の活動や感情を包み込む重要な要素である。しかし、私たちの生活を彩る空間は必ずしも美しく、機能的に設計されているわけではない。例えば、古いビル群の狭間に挟まれた暗くて狭い通路、高速道路脇に放置された巨大なコンクリート構造物、あるいは再開発によって取り壊され、今は空き地となった場所。
これらの「余白」や「隙間」、一見建築とは無縁の空間が、実は都市の重要な構成要素であることを示唆するのが、コロンビア出身の建築家、Alejandro Aravenaによる著書「Junk Space」(日本語版「ジャンクスペース:建築の可能性を探求する」)だ。
Aravenaは、「ジャンクスペース」を、建築設計における伝統的な「良い空間」と対比し、都市計画における「無視されがちな空間」と定義する。彼は、これらの空間が単なる「無駄」ではなく、むしろ都市の複雑な構造や歴史、そして人間の活動を反映した貴重な証であると主張する。
「ジャンクスペース」:建築の可能性を探る
項目 | 内容 |
---|---|
作者 | Alejandro Aravena |
出版年 | 2016 |
ジャンル | 建築理論 |
特徴 | 豊富な写真と図解を用いて、「ジャンクスペース」を具体的に解説 |
Aravenaは、著書の中で世界中の様々な「ジャンクスペース」の事例を紹介する。例えば、チリのサンティアゴでは、スラム街が都市の中心部に位置し、その周辺には巨大なインフラ施設が存在する。これらの空間は一見混沌としているように見えるかもしれないが、実際には住民たちの生活や社会活動に深く関わっていることがわかる。
また、アメリカのロサンゼルスでは、高速道路の建設によって生じた「ジャンクスペース」が、後に公園や緑地として再開発された事例を紹介している。この例は、「ジャンクスペース」を有効活用することで都市環境を改善できる可能性を示唆している。
「ジャンクスペース」の意義
Aravenaは、「ジャンクスペース」に注目することで、建築家たちが従来の美学や機能性を重視するのではなく、都市空間全体を俯瞰的に捉え、より包括的なデザインアプローチを考えることを促そうとしている。彼は、「ジャンクスペース」を単なる問題点としてではなく、都市の潜在能力を引き出すための貴重な機会と捉えているのだ。
「ジャンクスペース」は、建築や都市計画に関心を持つ人々だけでなく、社会問題や環境問題にも関心の高い読者にとって有益な一冊と言えるだろう。
まとめ
「Junk Space」は、建築の可能性を再定義し、都市空間のあり方について深く考察する貴重な書物である。「ジャンクスペース」と呼ばれる忘れられた空間こそが、都市の複雑さと多様性を反映する鏡であり、私たちの生活環境をより豊かにする鍵となる可能性を秘めていることを教えてくれる。
そして、この本の読み進める過程で、私たち自身も「ジャンクスペース」と向き合い、その可能性を探求することになるだろう。もしかしたら、私たち自身の生活空間にも「ジャンクスペース」は存在し、それを再解釈することで新たな発見があるかもしれない。